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デジタルテクノロジーの力で新しい価値をつくる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。多くの企業で推進が求められていますが、そこにはどんな理由があるのでしょうか。DXの優れた事例とともに、DXの必要性やメリットについてご紹介します。
DXとは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略で、直訳すると『デジタルによる変革』という意味を持ちます。2018年に経済産業省が発表したDXガイドラインでは、次のように定義しています。
“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること”
混同されがちですが、DX=IT化ではありません。IT化は主にデジタルテクノロジーによって業務を効率化させることを指します。IT化はDXの手段であり、DXはIT化を行ったうえで目指す『企業の変革』や『新しい価値の創出』のこと。DXという言葉の対象は広く、対象となるものは企業によっても異なり、『商品・サービス』『ビジネスモデル』『社内システム』『働き方』などさまざまです。
DX推進は現在、業種を問わず多くの企業で急務となっています。慢性的な人手不足などで悩まされる小売業や飲食業でも、DX推進の動きが活発に。一般的に『店舗DX』とも呼ばれ、デジタルテクノロジーを活用したオンライン・オフラインの施策が導入されつつあります。
『2025年の崖』は、経済産業省が2018年に発表したDXレポートに使用されている言葉です。各企業で使用しているシステムは異なるものの、現在日本企業が使用しているシステムの多くは、長年のシステム追加や変更を重ね、複雑化・老朽化・ブラックボックス化しています。
そういったシステムを『レガシーシステム』と呼び、レガシーシステムが残存した場合、2025年から2030年にかけての経済的損失は年間最大12兆円(現在の約3倍)と予測。この問題を『2025年の崖』と表現しています。また、レガシーシステムは今後、システムベンダーのサポート終了により、セキュリティ面や運用面でのリスクや不具合が生じる可能性が大いに考えられます。レガシーシステムを利用している企業は対応を迫られる一方、対応が遅れている企業が多いのも実際のところです。
AIなどデジタルテクノロジーが急速に発展し、ビジネスは高度化。市場において企業間の競争は激化しています。他社と差別化をはかり、継続して顧客を獲得していくためには、自社ならではの価値を提供することが必要です。時代とともに市場ニーズも移り変わっていきますが、そういった変化に柔軟な対応できるよう、環境の整備も求められます。
また、IT化に遅れをとった日本は、世界に対して経済的な影響力が低下。DX化に関しても、欧米諸国や中国と比べて遅れをとっているのが現状です。グローバル市場において存在感を示し、競争力を向上させるには、今後ますますDX推進は重要となるでしょう。
少子高齢化による労働人口の減少で、さまざまな業界で人手不足が深刻化。人手不足は業務効率の低下や業務の煩雑化を招くほか、長時間労働といった労働環境の悪化にもつながります。
働きやすい環境をつくることは、人材の確保・人材の定着にまつわる重要な項目のひとつです。DXによる業務の効率化や省力化、多様な働き方に合わせたリモートワークの導入などが求められます。
業務フローの見直しやシステムの導入などにより、生産性の向上が期待できます。例えば、これまでアナログ管理していた案件情報をデジタルで一元管理すれば、従業員間での情報共有がスムーズに。見積もり作成や進捗状況の把握、納期管理といった業務も効率化できます。ミスが減る、顧客への対応がスピーディーになるなど、顧客満足度の向上にもつなげられるでしょう。
作業時間を短縮できれば、優先度の高い他の業務に時間を割いたり、スキルアップのための学習時間に充てたりすることも可能です。従業員一人ひとりのスキルを活かしながら、成長を促す機会を創出できます。
DXにより業務を効率化させたり、経験値による業務の偏りを減らしたりすることで、従業員の業務負担を軽減でき、長時間労働の防止にもつながります。ワークライフバランスも改善され、企業のイメージアップにもつながるでしょう。また、コロナ禍で一気に導入が進んだリモートワークも、労働環境の整備に役立ちます。好きな地域に住みながら働ける、通勤にかかる時間が節約できる、子育てや介護をしながらでも働きやすいなど、メリットはさまざま。居住地を問わずに採用活動ができるため、優秀な人材を獲得しやすくもなります。
DXの取り組みを通じてさまざまなデータを取得し、蓄積されたデータを解析・活用することで、顧客や市場のニーズ把握に役立ちます。データの解析により予測の精度も上がり、市場の変化への柔軟な対応も可能に。データをもとにした、新たなサービスや商品、新規事業の開発につなげることもできます。また、データやAIから来客数を予測することで、仕入れのムダや廃棄を減らしたり、従業員の勤務状況をコントロールしたりすることも可能です。
BCP(事業継続計画)とは、大規模な自然災害やシステム障害といった危機的状況に陥った際、被害を最小限に抑えて業務をスムーズに継続するための対策のこと。DXによって業務フローを改善しておけば、万一のときにも柔軟な対応を取ることができます。
取り組む内容にもよりますが、DXは短期間で成果を得られるものではありません。中長期的な視点で取り組むことが大切です。自社にとって必要なDXは何かを洗い出して目標を明確にし、その上で自社の課題や企業規模に合わせたツールやシステムを検討・選定。企業によっては、自社で(あるいは専門の企業に依頼して)ツール自体を制作しているケースもあります。
システムの導入までに時間がかかるだけでなく、取り組みを進めるうちに改善点が出てきた場合は、適宜対応していくことも必要です。ツールやシステムを導入して終わりではなく、その後いかに上手く活用していくのかがDX成功のカギを握ります。
DXのツールやシステムの導入コストや、使用を継続するための維持管理費も必要です。また、導入当初はツールを使用する現場スタッフへのレクチャーや、業務フローの変更点共有などにも工数がかかります。そういった点も踏まえ、無理なく運用できるプランであることが必須。費用対効果に見合っているかどうか、定期的に効果測定を実施することも大切です。
DXの推進には、デジタル領域に精通し、変革のためのスキルや知見を持つ人材が求められます。DX人材には、『ビジネスプロデューサー』『ビジネスデザイナー』『アーキテクト』『データサイエンティスト』『AIエンジニア』『最先端技術エンジニア』『UXデザイナー』などがあげられますが、DX人材は質・量ともに不足しているのが現状です。人材の争奪戦は激化し、採用活動には時間もコストもかかります。
外部からの人材確保が難しい場合、専門家による講習会の実施やセミナー参加など、自社内での人材育成を視野に入れることも必要です。
東洋電装株式会社は、広島県に本社を持つ制御盤メーカーです。2022年2月、同社可部事業所(広島県安佐北区可部)が、『DX工場』をオープン。カメラや生産管理システムを活用し、課題の発見や業務の効率化を成功させています。
これまで紙ベースだった資料は、生産管理システムを導入してデジタル化。発注情報や設計図面、作業手順書などを一元管理しています。工場内のパソコンやタブレットから必要な情報に素早くアクセスでき、変更があった際の共有や作業記録の入力もスムーズになりました。作業状況の記録もでき、製品ごとの進捗状況を可視化。稼働がオーバーしている製品も、すぐに把握できるようになっています。
稼働がオーバーした製品については、工場内に設置されたカメラの映像データを分析。作業手順や人の動線、設備の見直しを実施して改善を繰り返したところ、同様の製品を作る際に35.6%ものコスト削減を実現しています。工具の管理にはRFID(Radio Frequency Identification)を使用。ICタグのデータを読み込むことで、検品や在庫チェックの作業効率を高めています。いきなりロボットを導入するなどハードルは上げず、社内リソースや資金に合わせた取り組みから実施している堅実さも特徴です。中小工場でのDX化に遅れが見られるなか、多くの中小工場にとって参考になる事例と言えます。
サン共同税理士法人では、従業員が働きやすい環境をつくるためのDXを推進。その取り組みが評価され、国内最大級の中小企業の祭典『日本中小企業大賞 2022』では、『働き方改革賞』を受賞しています。同法人では『データ化の推進』『完全ペーパーレスの推進』『テレワークの推進』『自動化の推進』の4項目をDXの柱としています。
税理士業界は税理士法の関係上、リモートワークがしにくいという特徴がありますが、テレワーク実施のためにIT環境を整備し、ガイドラインを作成。サーバ環境を仮想化し、自宅でもオフィスと同様の勤務を可能にしています。
また、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入し、単純な基本作業はロボットが実施。入力業務や総務や経理といった間接業務は専任スタッフが担当し、専門業務に専念できる環境を整備しました。労働時間削減だけでなく、専門業務に充てる時間を増やすことで、従業員のスキルアップにもつなげています。残業時間は繁忙期でも1日1時間以内、閑散期はほぼ定時退社を実現。また、DXにより生産性が上がり、1人あたりの売上は業界平均の倍となっているそう。DXによる効果を十分に引き出した結果となっています。
2022年11月より、銅製品の製造・販売を行うJマテ.カッパープロダクツ株式会社と新潟運輸株式会社は、業務改善を目指した共同プロジェクトを開始。新潟運輸が開発した荷札や配送伝票を発行するクラウドサービスと、Jマテの基幹システムを連携し、輸送する荷物情報をデータで自動送信する仕組みを構築。お互いのシステムを連携することで、開発期間の短縮も可能にしました。
この連携により、両社間でネックとなっていたドットプリンターによる伝票の印刷や送り状のFAX送信、電話確認など、アナログな作業は廃止となります。また、Jマテは配送する自社製品を新潟運輸へ持ち込んでいますが、今後は顧客からの発注受付時間を繰り上げる予定。持ち込み時間を早めることで、新潟運輸の待機時間を30分〜1時間ほど短縮できると期待されています。今回のプロジェクトにより、新潟運輸は年間560時間、Jマテは440時間、両社で合計1000時間の業務時間を削減できる見込みです。
2024年4月からは、トラックドライバーの時間外労働の規制が強化。運輸業界の『2024年問題』と呼ばれ、ドライバー不足やドライバーの高齢化が問題になるなか、対策が急務となっています。企業間の連携によって双方にメリットを生みつつ、課題解決の糸口を見出した事例と言えるでしょう。
企業だけでなく、自治体でもDX推進の動きは活発化。人々の暮らしやまちの在り方も、DXによって変革をもたらすことができます。長野県の南部に位置する伊那市は、高齢化や人口減が進む山あいのまち。抱える地域課題に対して『伊那市DXしあわせのまち宣言』と題した取り組みを実施し、全国の自治体や大手企業からも注目を集めています。
伊那市の取り組みのひとつが、2021年から本格運用が始まった『モバイルクリニック』です。医療機器をのせた専用車両で、看護師らが患者の自宅を訪問。オンライン診察や服薬指導などを実施します。
『ぐるっとタクシー』は、AIが自動配車を行う乗り合いタクシー。事前に行き先や利用時間を予約するとタクシーが自宅まで迎えに来る仕組みで、乗り合いがスムーズにいくようAIが最適なルートを判断します。
『ゆうあいマーケット』は、買い物弱者をサポート。高齢者が使い慣れたケーブルテレビから商品が注文でき、注文した商品は自動車またはドローンで配送してくれます。
医療や交通、買い物など、同様の課題を抱える地方都市は少なくありません。DX による伊那市の取り組みは、豊かなまちづくりを実現する、全国に先駆けた優れたモデルケースとなっています。
従業員の働きやすさや生産性の向上、リスク回避など、さまざまなメリットがあるDX。短期間で成果を出すのは難しいため、必要だと考えている場合は、早めにスタートしておきたいところです。過去の事例を参考にしながら、自社のDXを成功に導きましょう。
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