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50歳おかん、はじめてのギフティングに挑戦

カテゴリ:顧客とつながりたい 更新日:2022-07-13

内気な息子が夢中になっているライブ配信に興味を持ち……

夕食後、ソファで寝そべってスマホに夢中になっていた息子。

普段、あまり活動的とはいえず口数の少ない内気な彼が、指を仕切りに動かし声を出して笑うなどあまりに楽しそうなので、背後に回り画面をこっそり覗いてみた。

画面の向こうではかわいい女の子が何かを話している様子が伺える。息子がイヤホンをしているので、音声はまったく聴こえないものの、画面上ではハートやらキャラクターやら星やらさまざまなアニメーションが舞い、とにかく賑やかだ。

「やった」「よっしゃ!」「だよねー」などと珍しくテンションの高い息子。

しばらくしてイヤホンを外してソファから立ち上がると、ようやく背後の私に気づいた。

「お母さん、ずっと見てたの?」

「うん。なにやってたの?」

「ライブ観てたんだよ」なんとなく気恥ずかしそうに答える。

「テレビがあるじゃない。そんな小さいスマホなんかより」

「テレビに出ている子とかじゃないんだよ」

「だってライブしてファンがつくような子なら、テレビに出てる有名な子でしょうよ」

息子は面倒くさそうな顔をして、スマホ画面を見せて説明してくれた。

「あのね、今は一般人がオンラインでライブする時代なの。テレビだけじゃないの」

「えー、オンラインでライブ?楽しいの?」

「うん、特にギフティングするとすごい盛り上がるよ」

「ギフティング?」

「『投げ銭』っていったほうがわかりやすいか」

「投げ銭?それっておひねりのこと?」

私にとって「投げ銭」といえば、大道芸人の帽子の中にお金を投げ入れたり、歌舞伎などの役者さんに対しておひねりをあげたりするイメージだ。

「そのオンライン版だよ。

応援したい、楽しませてくれてありがとうの気持ちを形にして伝えたい、そういう思いを投げ銭機能を使って表す

という点では、リアルと同じだと思うけど」

「チケット代を出してリアルのコンサートに行った方が楽しいじゃない

「楽しみ方がちょっとちがうんだよね

自分のギフティングによってライバーがよろこんだり、直接名前を呼んでお礼を言ってもらえたりすると嬉しいでしょ。

他のファンの人たちのギフトやコメントを見て楽しむこともできるしね」

息子の説明に、かつて大ファンだった光GENJIの赤坂くんがステージ上で自分の名前を呼んでよろこんでくれる姿を想像してみた。うむ、それは失神するほどの特別体験に決まってる。

「なんていうアプリ?お母さんもやってみようかしら」

デジタルに弱いおばちゃんが初めてのギフティングに挑戦

息子が楽しんでいたのはPocochaというライブ配信アプリだった。ダウンロードし、まずは自分の名前「A子」でアカウント作成をする。

「どれでもいいから、おもしろそうと思うチャンネルに入ってみなよ」

ずらりと並ぶ配信者の中から、目が大きくてかわいらしいNさんという女性のチャンネルをタップした。昭和歌謡曲を歌っているのも自分に合いそうだと思ったからだ。

入室してみると、20代後半くらいの年代と思われるNさんが、楽しそうに雑談をしているところだった。

すると「A子さん、はじめまして!」といきなり言われて面食らった。

「ちょっと、お母さんの姿、あちらさんにも見えてるってこと?なんでわかるの?どうしよう、お化粧しなきゃ」

「見えてねぇし」吐き捨てるように答える息子。

さあ、入室もしたところで、じっくり操作方法を教えてもらおうじゃないの。

そう鼻息を荒くしたところに、息子に仕事の電話がかかってきてしまった。

ひとりで途方に暮れ、とりあえずNさんが雑談しているのをただ聴いていると、「A子さん、初心者なんだね」とNさんが気にかけてくれた。Pocochaを始めたばかりというのが表示され、ライバーさんにもわかるシステムになっているようだ。

そんな私にNさんがやさしく説明をしてくれた。

「配信を7分以上観て1分に1回コメントくれたら、向かって右側のボックスが1つもらえます。そのコインを使って右下のプレゼントマークをタップしてね。その中からギフトを投げられるよ!最大2つもらえるので、15分はぜひ楽しんでいってくださいね!」

画面の向こうから、何人ものリスナーさんがいる中で個人的に話しかけてもらうのは、なんとも不思議な体験

だった。特に、私の世代で「画面のあちら側にいる人」といえば、芸能人やスポーツ選手などの有名人なので、直接話しかけてもらえるなんて経験はもちろん皆無。なんだか妙な距離感にドキドキしてしまう。

「ありがとうございます」と、ぎこちない指でコメントボックスに打って送信してみた。リアルの世界における人前での発言に似た緊張感を覚えたが、Nさんから「初コメントもできたね!」と笑顔を向けられたり、Nさんのコアファンのリスナーさんたちから「やったね」などとコメントをもらうと、小さな高揚感が込み上げてくる。

スマホに疎いおばちゃんがライブアプリの操作をひとつずつクリアしていき、息子と同じくらいの歳の子に褒められるのも、なかなか悪くない。

臨場感のあるライブとファンとの一体感

やがてNさんがテレサ・テンの「空港」を歌い始めた。私は他のリスナーさんたちの真似をして拍手やらキラキラやらの絵文字を打って送り続けた。若い娘さんが頑張って歌っている姿を見ていると、応援したい気持ちが自然と湧き上がってくるものだ。

そして歌い終わった頃には、Nさんに教えてもらったように「ポコボックス」で2コイン貯まったので、右下のギフトマークの中からゴールドのハート1つをポチってみた。

「A子さん、ありがとー!はじめてのギフティング、完璧です!」

私が送ったギフティングに対してNさんから直接コメントをもらうと、テレビ電話か何かで1対1で会話をしているような不思議な感覚に襲われた。他のファンの方からの「祝・初ギフティング」や拍手の絵文字などがコメント欄に流れてくると、ほんわかとした温かい気持ちにすらなる。

「なにかしら、この不思議な一体感のようなものは……」

そして次の曲を歌い始めたNさんに、

Niceなどの文字がついた絵文字やキラキラしたアニメーションなどがひっきりなしに投げられる。ギフトには本当にたくさんの種類と価格設定があり、ギフトが高額になるほど目立つように表示されるという仕組みのようだ。

考えてみれば若い頃、某インディーズバンドにファンレターを書いたりプレゼントを贈ったり、地方ライブまで追いかけたりと、熱心にファン活動をしていたものだった。彼らの目に留まるように、目立つ包装紙で包んだプレゼントを、他のファンをかき分けて彼らに手渡そうと必死だったのを思い出す。

リアルのライブとまではいかなくとも、スマホの小さな画面でもファンの熱気が十分に伝わってくる。私もだんだん楽しくなってきて、気がついたらあっという間に15分が経過していた。

立場も年齢も関係ない交流って楽しい!

ライブが終わりに差し掛かると「それでは、今日のトップ5を発表させてもらいます!」とNさんが弾けた声で言った。何が始まるのかと思っていたら、たくさんのギフティングをしてくれた人に感謝の気持ちを伝える時間のようだった。

5位から始め、最後に1位のリスナーさんの名前を呼ぶと、即興での歌も添えて盛大に感謝の意を伝えるNさん。ファンにとってはこんなに嬉しいことないだろうなーと、すでに若干のうらやましさが込み上げてきていた(笑)。

Nさんに教えてもらった通り、左上の「+」マークをタップしてフォローをし、Nさんのライブは終了。気がつくと次のライバーさんを探してアプリ内を彷徨っていたら、電話を終えた息子が戻ってきた。

「ごめん、できた?」

「うん、ライバーさんが教えてくれたよ」

「ときどき親切に操作方法を教えてくれるライバーさんがいるんだよね」

「無料の範囲だけど投げ銭もやってみたよ。頑張っている子を応援するって純粋に楽しいわね」

それから一週間、気がつけばPocochaを開いていて、フォローしているライバーさんは10人を数えた。

私がリアルで追っかけをしていた若い頃は、それなりの労力とお金を費やし、ときにはぐったり疲れたこともあった。でも、現実にはないキラキラした世界は悩みや嫌なことなどすべて吹き飛ばす力があり、夢中になって追っかけをやっていたものだ。

そう考えると、自宅にいながらファンのライブ配信を楽しみ、ギフトを送って応援できるというのは、大きな負担を伴わず手軽に別世界を味わえる非常に素敵な方法なのかもしれない。

ギフトを贈ることで、フォローしているライバーさんのランクや人気が上がっていくのを見守るのも楽しいだろう。インディーズの頃からのファンだった無名バンドが紅白に出場するまでに成長したのを、ファンたちは「自分の支えも一助になったはず!」などと誇らしく思わないはずがなかった。

それからもうひとつ、リアルの生活で滅多に接する機会のないような人と交流できるのも、ライブ配信の醍醐味といえるだろう。先ほどのNさんくらいの若い女性は勤務先に何人かいるけれど、親子ほど離れているのでどうしても上下関係ができてしまい、気軽に話して笑い合うカジュアルな関係を構築するのはなかなか難しいものだ。この歳になって自分の世界が広がるのはとても楽しい。

立場も年齢も関係なしに、気負いせず会話を楽しんだり、気軽にギフティングできたりするのがいいんだよね

夕食時、たまにはいいことを言うなぁと息子の言葉に深くうなずきながら、私はもはや日課になっている夜のライブ配信に心を躍らせていた。

Posted by ライブ初心者おばちゃん

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